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忘れへんうちに 旅編では、南イタリアの旅を終了し、中国黄土高原の旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。
また、いままでは季節のことがらという項目で記事を作っていましたが、これからは旅編の方で作ることにしました。


【商品説明】
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古代ローマ 窓ガラスの作り方


『ガラスの考古学』は、宙吹きガラスの技法が確立されると、ガラス容器の大量生産が可能となり、1世紀後半のローマ帝国領内では、高級品と日用品とが明確に分離され、日用品は銅貨1枚で購入できるほど 一般化したという。 ガラスの色も、器壁が薄くなったことや、高温処理により ガラス内のガス気泡や不純物が減少したことによって、かつての有色不透明のものから、単色透明のものへと変化した。器形的にも多様化し、杯・碗・皿・ 鉢などの他、水瓶や水差しが増加し、窓ガラスまでも製作されるようになったという。
窓ガラスについては、吹きガラスを大きく長く作っておいて、切り開いて平たくするか、丸く吹いて先を切ってクリクリ回すと遠心力で平たく広がって丸い板ガラスができると聞いたことがある。
その後、ヴェネツィアやフィレンツェで丸いガラスを窓に並べたものを見て驚いた。それがロンデル窓であることが判明したのは、ガラス作家田上惠美子氏に教えてもらったからである。
それについてはこちら
しかしながら最初期の窓ガラスはロンデル窓ではなく、板ガラスだったようだ。

『ローマ人の危機管理』は、実際のポンペイの都市住宅の基本構造は、ホールの 周りを居室がとりまく構成を一つの単位とした組み合わせであり、アトリウム型であれば1単位、ドムス 型であれば複数の単位で構成された。このような構成をもつのは、ポンペイの都市住宅がコンプルウィウムや中庭を通じて自然光を取り込む必要があったからである。
この基本構造の特徴に、窓が少ないことがある。やや大きい窓でも、天井近くの非常に高い位置にあるのが一般的である。住宅の敷地によっては、居室が街路に接する場合があり、窓を街路に面して開けようとすれば可能であったにもかかわらず、ほとんどないか、小さな明かり取りの穴が空いているだけである。つまり、「窓を開けられなかった」のではなく、「意図的に窓を開けなかった」のである。その理由については、単にポンペイの人々が暗い居室を好んだ可能性も否定しないが、「防犯」以外には考えにくいという。
ポンペイやエルコラーノでガラスの嵌まった窓を見た記憶がない。いや、窓自体をほとんど見かけなかった。というよりも、小さくてしかも上の方にあったので、窓と気づかなかったのだった。
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写真を見直すと、アボンダンツァ通りに面した家々にも小さな窓があったが、こんなに小さく、しかも北側にあるので、部屋に光が入ることもなく、薄暗かっただろう。

アボンダンツァ通りのジュリア・フェリーチェのプラエデイア(大邸宅)には、大きな中庭風のアトリウムに面した居室でさえも、上の方に小さな窓があるだけ。
『古代ローマ人の危機管理』は、中央広間や中庭から光を取り入れるとしても、面するのは扉だけで、居室にはほとんど窓がない。おそらく日中は扉を開け放たなければ、室内は薄暗かったに違いない。少し専門的な解説を加えると、扉から入る自然光によって照らされるのは、出入口付近だけであり、天井と扉の高さにもよるが、5、6mの奥行きがあると、部屋の奥は真っ暗であったと思われるという。
ポンペイ、ジュリア・フェリーチェのプラエデイア、水路のある庭園 現地の写真パネルより


『古代ローマ人の危機管理』の藤井慈子氏の「古代ローマの窓と窓ガラス」で、最初期の窓小さな窓に嵌め込まれていたのは、ガラスではなかったことを知った。
同書は、ポンペイのアボンダンツァ通りに面する家々では、2階以上の高所に、鉱物製透明板がはめ込まれた格子窓が使用されていた。V・スピナッツォラによって発掘された「パクイウス・プロクルスの家」のアトリウムでは、西壁の6m近い高さにin situ(本来の場所)にはまった状態で、青銅製の格子窓の残骸が発見された。その付近からは、その格子にそれぞれはめられていたと思われる、1枚22㎝X16㎝、厚さが0.15㎝の「滑石」板が、ほぼ完全な状態の8枚、そして30近い断片(少なくとも15-20枚分に相当)で見つかった。「滑石」板には、格子に固定する際に使用したと思われる漆喰の痕跡も残っていた。そこで、この窓は、25枚の滑石板が格子部分に漆喰で固定される形ではめられていた縦1.1mX横0.80mの青銅製の格子窓だったと想定されているという。
ガラスではなく透明な滑石という鉱物の薄板が嵌め込まれていたようだ。
ポンペイ「パクイウス・プロクルスの家」アトリウムの格子窓復元想像図 『古代ローマ人の危機管理』より


『古代ローマ人の危機管理』によると、発掘現場で板ガラスの残骸を見つけても、窓ガラスへの関心が高まる以前は、記録も、遺物の保管もされなかったらしい。

同書は、ピーター・キエンツルは「内向的生活-ローマ時代の建築におけるセキュリティの痕跡」の中で、ローマ時代の窓は現代とは異なり、光と換気の2つがその主な機能であり、街路に面した窓の多くは人が入れないほど小さく、現代のように防犯の必要がなかったと述べている。その窓が、大きくなったことには、ローマ帝政期に入って登場した窓ガラスが関与していると見なす。さらに、当時の板ガラスの大きさから見て、それらが華奢なつくりの木枠にはまっていたため、それだけでは簡単に壊されてしまい、防犯の役に少しでもたつとすれば、窓ガラスが割れる音くらいなので、防犯のためにはその外側に木戸が付いていたと推量するという。



エルコラーノ(古代名ヘルクラネウム)のアルコーヴの家トリクリニウム

同書は、ヘルクラネウムの「アルコーヴの家」のように、道行く人が少し背伸びすれば届きそうな高さに、方形の窓が開けられ、鉄製や青銅製の格子がはめられた家も見られる。それらの格子は錆びて膨れ上がっているが、直接漆喰に設置されたように見える。

トリクリニウム(食堂)の2つの格子窓には、格子がはまった街路側に対し、室内側には炭化した木枠が残っており、 発掘者アメディオによれば「アルコーヴの家」のトリクリニウムの2つの格子窓には、格子がはまった街路側に対し、室内側には炭化した木枠が残っており、発掘者アメディオ・マイウーリによれば、窓の下、火山泥の中に大きな板ガラスの断片が落ちていたという。

このため、外側は格子、内側は板ガラスというセットが、1階の街路に面した窓では防犯とプライバシーを意識して使用されたと思われる。プライバシー保護の可能性は、当時の板ガラスが無色透明よりも自然発色の淡青緑を帯びた半透明が多く発見されていることから類推できる。すなわち、外からの光を取り入れながら、道行く人々からのぞき見されることを防いだと考えられる。また、同トリクリニウムはフレスコ画で彩られていることから、板ガラスは、室内装飾や窓下の2人用寝椅子を雨や風から守る効果もあっただろうという。


ヘラクレニウム、アルコーヴの家トリクリニウムの窓『THE EXCAVATION OF HERCLANEUM』より


ポンペイ、スタビア浴場控え室の円窓 前2世紀
『完全復元ポンペイ』は、天井は半円筒形で、複雑なスタッコの浮き彫りが施されている。写真の奥にみえるのは運動場への出入り口、その上にガラスをはめこんだ小さくて円い採光窓があるという。
吹きガラスが誕生したのは前1世紀第3四半期頃とされているので、ロンデル窓はまだ登場していない。前2世紀では鋳造で平たいガラスを作っていたのだろうか。
ポンペイスタビア浴場待合室 『ポンペイ 今日と2000年前の姿』より

『古代ローマ人の危機管理』では、セネカが述べたような浴場の窓の出現、複数の広い側窓が実際に見て取れるのは、ポンペイの中央浴場とヘルクラネウムの郊外浴場2つのみである。
ヘルクラネウムの郊外浴場(南東角)では、噴火時には修復中であって使用されていなかったものの、海に面した南面に、それも視線上の高さに大きな窓がいくつも開けられ、さらにそこに板ガラスがはまっていた証拠が残っている。すなわち微温浴室(E)、その右の温浴室(C)、その左の温浴プール室(T)の窓である。この3室の中で、マイウーリは、E室の窓について一番詳細に報告している。すなわち、「南壁のニッチには、光が十分に入る大きな窓(長さ2.05mX高さ1.05m)が穿たれ」、その「開口部には頑丈な木枠」が残っており、「もう1つの円形の窓が、方形(0.54mX0.69m)のくぼみに穿たれ」、「その床面から収拾された多数のガラスの破片は、方形窓と円形窓に板ガラスがはまっていたことを物語っている」と記している。なお、マイウーリが記録した窓の数値は、2018年に堀研究室によってレーザースキャンされた計測値とほぼ同じで、注意深く計測・記載されたことがわかる。ただし、これらの窓の下で発見された多数のガラス片については、残念ながら現在は消息不明であるという。
ところどころの窓に格子が残っている。

小川拓郎氏作成 エルコラーノ郊外浴場の南に面した部屋と窓 『古代ローマ人の危機管理』より

エルコラーノ 中央浴場
『古代ローマ人の危機管理』は、ヘルクラネウムの中央浴場は、女性用男性用を問わずシンプルで、装飾といえるものは白黒のモザイク舗床に、白一色の円筒ヴォールト天井のリブ装飾である(むしろ天井から冷たい水滴が落ちることを防ぐ機能美)という。
見学したものの、ヴォールト天井と床のモザイク画しか見ていなかった。

女性用脱衣所の片隅に円窓から差し込んだ日光はたまたま撮れているのだが・・・

ヴォールト頂部に円形窓が設けられているのは女性用の脱衣所と微温浴室とされるが、現在でもはっきりと淡青緑のガラス片が漆喰にはまっていることが確認できるのは、脱衣所であるという。
ガラス片でも残っている窓ガラスを見ることのできるチャンスだったのに、成せ円窓を見上げなかったのだろう。
エルコラーノ中央浴場女性脱衣所の円形窓とガラス片 『古代ローマ人の危機管理』より


続けて同書は、同じような円形の窓と溝は男性用の温浴室のニッチ上部にも見られ、筆者はガラスのごく小さな断片を確認することができた。このような円形窓にはめられていたガラスは、半球円縁タイプだったとフォアらは推定しているという。

板ガラスではなく、半球形のガラスがあるのだった。


同書は、一部の窓ガラス研究では、この最初期の板ガラスが 「吹き技法」によって製造され、そのため価格も安価で人々の生活に普及したと説明されている。しかしながら、ポンペイやヘルクラネウム出土の最古の板ガラスは、

①表面がつやつやして波打ち、

②裏面がザラザラで平らで、

③表面の四方の角に丸みと周囲の縁に器具痕が残り

④中心よりも周囲に厚みがある(厚みが均一でない)、

など裏表の状態が異なり、またその四辺もカットして整えられた痕跡がない。もしも吹き技法の円筒法によって製造されたものであれば、両面ともつやつやとし、厚みも均一となる。 円筒法がいつ開発されたか定かでないが、後2世紀半ば以降と思われるという。

吹きガラス以前の技法でつくられたとなれば、スランピング?


ローマ・ガラスの技法的研究を長年にわたり続けてきたマーク・テイラーとデヴィッド・ヒルは、この最初期の板ガラスの特徴を踏まえて、再現実験を行った。その結果、最初期のガラス製の方形平板の板は、時間も手間もかかるヘレニズム時代からの熱と重力を利用した伝統的技法を駆使して製造された「流し込み+引き延ばし(pouring and stretching)」技法で製造されたことが判明したという。

以下の画像は『古代ローマ人の危機管理』に記載されたマーク・テイラーとデヴィッド・ヒルによる方形平板窓ガラスの復元より


① まず、溶けたガラスの塊を離型材の上にとぐろを巻くように流し、


② レンガなどで押しつぶす。


③ 器具を用いて円形になるよう周囲にガラスを伸ばしていく。


④ ガラスが冷えて動かなくなったら温め直し、器具で引っ張ったり、押しつぶしながら、


⑤ 方形に近づける作業を繰り返す。



近年になって窓ガラスであることが判明した半球円縁の板ガラスもまた、方形平板と同様な技法で製造されたことが、先のテイラーとヒルと共同研究したフランク・ワイゼンベルクらによって再現実験されたという。

以下の画像は『古代ローマ人の危機管理』に記載されたマーク・テイラーとデヴィッド・ヒル、フランク・ワイゼンベルクによる半球円縁窓ガラスの復元より


平らな円盤型のガラス板を製造する過程までは同じ


④ さらに半球状の腕をひっくり返したような
型は、数種類の粘土と植物を混ぜ合わせて作ったもので、円盤型の板ガラスと一緒に窯の中に入れて温め、


⑤ ヘレニズム時代の熱垂下(slumping) 技法も駆使する。
取り出して型の上に円形の板ガラスを載せると、


⑥ 熱で柔らかくなったガラスが重力で下に垂れていく。


⑦ その時を見計らって円盤のガラスが型に沿うように、器具で型の周囲を平らに整える。
  ガラスが冷えて固まったら窯に入れて温めてはその作業を繰り返し、


⑧ 完成する。


このため、加工が容易な鉱物製の板に比べ、一つ一つ手作りで仕上げる手間と時間のかかる「一点もの」であったことがわかる。大きさは、鉱物製と同程度の25㎝四方から50㎝四方まであり、中には縦の長さが1m近いものまであるという。


半球円縁の板ガラス ローマ時代初期(後1世紀) 高さ7㎝、直径25㎝前後 伝イタリア、カンパーニア地方出土 ルーヴル美術館蔵

『古代ローマ人の危機管理』は、同様な半球円縁型の板が、近年の発掘によりスペイン、ポルトガル、イタリア、フランス、イギリス、スイスなどのローマ時代の遺跡で、主に浴場址から発見され、その出土状況から窓ガラスへの見直しが図られた。なお、帝政後期の事例ではあるが、フランス南部のザンビエ島近くで発見された後3-4世紀の難破船から、方形平板タイプと共に、高さ157㎝、直径50㎝前後の半球円縁タイプが7つ入子式に重なった状態で発見されている。鉱物製とガラス製の窓ガラスに見るこのような違いは、板ガラスが単なる鉱物製の模倣にとどまらず、鉱物製との違いを出すことでその商品性を高めようとしたあらわれと捉えることもできるという。

浴場に特化された窓ガラス。古代ローマでは、パンとサーカスの他に、浴場も大切な市民への奉仕だったことを物語る遺物である。


伝カンパーニア地方出土半球円縁板ガラス ルーヴル美術館蔵 『古代ローマ人の危機管理』より


アラバスターの窓があることを知って以来、まず窓には光を通す石の薄板が嵌め込まれ、後に板ガラスができたのだと思っていた。
ところが、その後、ポンペイのガラス窓や吹きガラスのロンデル窓の存在を知り、必ずしもアラバスターの窓が歴史的に古いというわけではないことがわかってきたが、同書のおかげで、最初期の窓には透明に近い鉱石の薄板、続いて一点物の鋳造ガラスが嵌められていたことを知ることができた。 



関連項目

参考文献
「ものが語る歴史2 ガラスの考古学」 谷一尚 1999年 同成社
「古代ローマ人の危機管理」 堀賀貴編 2021年 九州大学出版会
「THE EXCAVATIONS OF HERCLANEUM」 Mario Pagano 2017年 Edezione Flavius

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